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青少年は『凶悪化』しているのか:第一章 (2005.01.18 Tuesday) [論文]

 この論文は、教授がこのサイトとは全く関係のないところで仕上げたものです。
 基本的に論文用として書かれているので、今までのサイトの表現とはかなり異なりますが、その点はご了承ください。
 ただし、サイト公開用として次のような手直しをしています。

 ・行間を空けて読みやすくしている。
 ・重要な部分を強調している。

 本来、この二つの処理は論文としては不適切ですので、論文の形式の参考にされる方は注意してください。


青少年は『凶悪化』しているのか−統計と現実、イメージの剥離−

目  次
はじめに
 第一章 少年犯罪のイメージと実像
  1節 青少年は凶悪化しているのか
  2節 青少年の軽犯罪の増加は非行化の現われか
  3節 粗暴犯における少年比の増加は『凶悪化の証明』か
 第二章 強盗件数の増加をどう見るか
  1節 強盗件数の増加
  2節 自己成就型予言
 第三章 青少年は凶悪化ではなく純真無垢となっている
おわりに

はじめに
 近年になって青少年が凶悪化し続けているという報道が頻繁になされるようになった。
 1997年に神戸の中学生による幼児惨殺事件が起こり、2000年には佐賀バスジャック事件(5月3日)や岡山金属バット致傷事件(6月21日)、大分一家六人殺傷事件(8月16日)と相次いで少年による凶悪な事件が発生している。
 このような事件を背景として、報道の中には青少年が凶悪化しているのは自明の理であり、検討する必要性さえないと考えている媒体も少なくない。

 しかし、これらの一部の事件だけを取り上げて少年の『凶悪化』を叫ぶのは本当に正しいのであろうか。
 この論文は、少年犯罪の原因を探ろうとするものではない。統計と理論よって現実の少年犯罪とイメージ上の少年犯罪の剥離を解明していくものであり、通俗的なイメージに囚われない現実の少年犯罪はどのような姿なのかを研究するためのものである。

第一章 少年犯罪のイメージと実像

 1節 青少年は凶悪化しているのか

 近年になって青少年が凶悪化しているという言説がマスコミ及び一般社会の中で広く浸透している。
 1997年に神戸の中学生による幼児惨殺事件が起こり、2000年には佐賀バスジャック事件(5月3日)や岡山金属バット致傷事件(6月21日)、大分一家六人殺傷事件(8月16日)と相次いで少年による凶悪な事件が発生している。

 青少年白書平成10年度版の調査では「青少年による重大な事件などが増えていると思うか」という問いに対して、「かなり増えている」「ある程度増えている」と回答した合計が、13才以上20才未満の層で92.9%、20才以上の層では94.3%に達している(1)。

 しかし、このような社会に流付するイメージとは異なり、実際の犯罪統計が示すデータは、少年たちの凶悪化を示唆することはなく、逆に近年における少年の凶悪犯罪数は劇的に減少していることを示している。このことは既に多くの研究者や放送関係者たちによって指摘されている(2)。

  たとえば、年齢送別殺人率を十年ごとに算出してみた長谷川眞理子は、「殺人」で検挙される青少年の割合が戦後一貫して減少してきていることを指摘している。
 (中略)
 すなわち、「最近の青少年は簡単に人を殺すようになった」という通念とは逆に、十代では一九七〇年半ば以降、二十代では八十年以降は、「人を殺さなくなった」のである。

 広田照幸『教育言説の歴史社会学』
 (凶悪犯罪による摘発数は)一九六〇年代半ば以降、多少の変動はあったものの、ほぼ一貫して減少の傾向にあって、「第三の波」のピーク時でさえ最低レベルを更新しつづけていた。
 (中略)
 「殺人などの主要刑法犯が激増!」などといったように、主要刑法犯には殺人も含まれるから論理的にはたしかに間違った表現ではないにせよ、現実に増えていたのは殺人ではない以上、明らかにミスリーディングな見出し記事が、多くの新聞紙上をにぎわしていたのである。

 土井隆義『<非行>少年の消滅』

 では、何故統計が青少年の凶悪化を示唆していないと言うならば、それとは逆に青少年の凶悪化が叫ばれることとなったのであろうか。
 刑法学者の前田雅英は、自著『少年犯罪――統計からみたその実像』(3)の中で次のように述べている。

 少年の凶悪犯(殺人に強姦や強盗・放火を加えたもの)を犯す率は、ここ十年で三倍にもなってしまった。

 このような論調はこの著書だけではなく、マスコミなどで繰り返し語られてきた。そして、それを裏付けるかのように前田の著書では【図1】を掲載し、統計上間違いなく少年の凶悪犯罪が激増していると判断されることとなる。

 また、法務省の発行する犯罪白書(平成14年度版)(4)に掲載されている少年主要刑法犯のグラフ【図2】を見ても、少年の犯罪数は多少の波は存在するものの、右肩上がりに年々上昇していることが一目で明らかになっている。

 しかしながら、この二つの統計をそのまま受け取ることはできない。
 まず、【図2】のデータは凶悪犯罪に分類される「殺人・強盗・強姦・放火」を含まれるのは勿論のことであるが、それ以外にも粗暴犯「暴行・傷害・恐喝・脅迫」や知能犯「詐欺・横領」に窃盗犯など全てを含めてある。即ち、少年主要刑法犯の数字が上昇していることが、そのまま少年の凶悪犯罪が増加していることにはならない
 実は、警察庁の発行している少年犯罪の統計の中から、戦後の凶悪犯罪の件数のみを取り上げると【図3】となる。

 このデータを見ると、少年による凶悪犯罪は決して激増してはおらず、むしろ戦後から1990年にかけて一貫して急激に減少していることが判明する。前田による【図1】のグラフは、最も凶悪犯罪の件数が少なかった1990年を基準としているグラフであるために、あたかも急激な凶悪犯罪の上昇が近年特有であるかのように装っているが、現実はそうではないということも分かる。
 確かに、90年以後はわずかながら凶悪犯罪の件数は上昇しているのは事実であるが、全体の流れからして、大きな変化だとは到底いうことはできない。

 また、前田は「ここ一〇年間を見た場合に、少年の殺人犯は明らかに増加したといわざるを得ない」と述べているが、凶悪犯罪がこの十年間に増加しているのは事実としても、その増えた実数を担っているのは強盗件数であり、殺人数そのものはこの90年から2003年の間のみで見たとしても、一過性の上昇はあれども、基本的にほとんど増加していないことが分かる【図4】。

 これらを考えると、マスメディアに登場する統計の数字は正しい使い方がなされていないものが多く、信頼に足るものではない。
 それらの統計の誤用から『青少年の凶悪化』という答えを導き出すのは極めて安易な態度である。


 2節 青少年の軽犯罪の増加は非行化の現われか

 各年齢層人口十万人あたりの殺人(人口比)の推移【図5】を見ると、14歳〜19歳の殺人数は61年の4人をピークに減少をし続け、70年代後半には一人前後で推移していることが分かる。

 20〜24才の年齢層も、60年前後では10人と高い数値を持っていたが、その後急速に減少し、80年代以後は二人前後で安定して推移している。このことは、「最近の若者はすぐに人を殺す」という世間の通説とは異なり、「若者は殺さなくなった」ということを示している。主要少年刑法犯の急激な上昇は、決して少年犯罪の凶悪化を意味してはおらず、今の青少年は「おとなしく」なっているのである。

 ところで、主要刑法犯の数字を激増させているのが凶悪犯罪でないならば、何がこの数字を押し上げているのであろうか。

 社会学者の土井隆義により、第二次世界大戦後もっとも少年犯罪の件数が多かった1983年は「第三の波」と呼ばれ、戦後最悪と叫ばれたが、その内実はほとんどが店先の品物を万引きする程度の窃盗犯及び横領犯−その内訳のほとんどは「占有物離脱横領罪」という所謂放置自転車やオートバイの乗り逃げ−で占められていたことが指摘されている。

 当時の犯罪は「遊び型非行」と称されていたが、この遊び型非行とは「罪悪感のない遊びの非行」というイメージだけではなく、「そのほとんどが万引きや自転車の乗り逃げレベル程度の非行」という実体も表されていたのである(5)。

 この傾向は現在においても同様で、平成14年に検挙された検挙・補導された少年の内訳は、凶悪犯が2,130名(全体の約1.3%)なのに対し、窃盗犯と横領犯が134,661名(全体の約83%)と大半を占めている(6)。
 遊び型非行は現在では初発型非行と名を改められ、軽微な犯罪からやがて重大な犯罪へと移行すると目されていた。しかし、窃盗での検挙者の年齢別推移をみた【図6】では、10代の数字の動きと20代の数字とが全く対応していないことが分かる。

 これは、低年齢での非行が成長しても持続するわけではないということを示し、同時に広田照幸が言うように、「十代で万引きなどで捕まったりする者はいるが、ある年齢になったら落ち着いて、ほとんど皆まともに暮らしている」のである(7)。

 ただし、これは逆に言えばどんな少年が犯罪を起こすかどうかを、判断することができないということでもある。
 「初発型非行」という用語が作られたのは、警察関係者の間では当初の犯罪が軽微であったとしても、何度も繰り返すことにより徐々に悪質化が進み、やがては重大な犯罪に手を染めるというイメージが存在していたためである。だからこそ警察は「早期発見・早期治療」を叫び、初発型非行に重要な観点が置かれていたのである。

 しかし、現在ではこの考えは通用しなくなっている。「十代で万引きなどで捕まったりする者はいるが、ある年齢になったら落ち着いて、ほとんど皆まともに暮らしている」にも関わらず重大な犯罪が発生するのは、非行前歴のないごく普通の少年が突然重大な犯罪を犯してしまうことを意味している。第三の波の時点でも、非行少年と普通の少年の区別がつき難くなり、パトロールの警官も、どの少年に注意を向ければいいのかが分からなくなってしまっているという点が指摘されている。最近の少年犯罪が「わけのわからない」ものにしている理由は、この爆発性の犯罪が増加していることが理由の一つとしてあげられるであろう。


 3節 粗暴犯における少年比の増加は『凶悪化の証明』か

 「警察と少年非行」では、昨今の粗暴犯における少年比の増加が問題視されている(8)。

 凶悪犯や粗暴犯などのといった重要な犯罪の分野においても、近年は、成人による犯罪と比較して、少年による犯罪の突出した増加が著しく、検挙人員に占める少年比が顕著な増加傾向を示しているということである。

 後藤弘子(編)『少年非行と子どもたち』-警察と少年非行-

 警察庁発表の統計によると、粗暴犯において少年比が増加しているのは事実である。しかしながら、これは少年が成人よりも凶悪化していることを意味するわけではない。広田照幸が警察庁から発表された粗暴犯のデータをまとめた【図7】(9)によると、確かに粗暴犯全体の割合を占める少年の比率が高まっているが、高くなっているのはあくまでも比率であり、「凶悪化している」との言説とは逆に、青少年における粗暴犯の検挙人数は減少していることが分かる。

 検挙人数が減少しているにもかかわらず、比率が高くなっているのは、成人側の粗暴犯の検挙人数が、少年の減少数よりも遥かに減少しているからである。62年度と99年度を比べた場合、青少年が約4割に減少していることに対し、成人側は約2割にまでも減少している。

 つまり、少年の人口比率が高まったのは少年が凶悪化しているためではなく、少年の粗暴犯が減少する以上に、成人による粗暴犯の減少が著しいためである。逆に言えば、これは現行の保護システムが上手に機能し、一度犯罪に手を染めた少年たちが無事に社会復帰を為してまともな成人になった事の証明であると言える。

 このことを広田は、単純に少年比が上がっていることだけで「少年の粗暴化」と呼んだり、「史上最悪の事態」などと呼ぶのは統計データの誤用(悪用)であると述べ、「大人たちが昔に比べて平穏な日常を享受するようになったがゆえに、大人ほどドラスティックに粗暴犯が減少していっていない少年の世界の粗暴さに対して、過剰な不安や敵意を抱くようになったと考えられるのではないだろうか」と付け加えている。

 デュルケムは、犯罪に対して社会が加える反応の強度は、その犯罪の発生する頻度と反比例すると述べている(10)。少年が凶悪化していると声高に叫ばれ、残酷な少年犯罪の報道が騒ぎ立てられるのは、それが日常と化しているからではない。もしそうであるならば、我々はそれを「ただの事件」としてしか扱わず大した注意も払うことはない。少年の凶悪犯罪が我々の日常とはほど遠い、稀な出来事であるからこそ、少年の凶悪事件はマスメディアの「商品」となって我々の元に届けられ、我々はそれを「消費」するのである


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参考文献
(1)『青少年白書』平成10年度版 
(2)横山実「日本における少年非行の動向と厳罰化傾向」、鮎川潤「少年犯罪・・・ほんとうに多発化、凶悪化しているのか」、奥平康照「少年犯罪は凶悪化しているか」、大村英昭『非行の社会学』、広田照幸『教育言説の歴史社会学』、土井義孝『<非行少年>の消滅』、橋本健午『有害図書と青少年問題』、他多数
(3)前田雅英『少年犯罪――統計からみたその実像』
(4)『犯罪白書』平成14年度版
(5)土井義孝『<非行少年>の消滅』
(6)『犯罪白書』平成15年度版
(7)広田照幸『教育言説の歴史社会学』
(8)後藤弘子編『少年非行と子どもたち』葉梨康弘-警察と少年非行-
(9)広田照幸『教育言説の歴史社会学』、『犯罪統計書』各年度版
(10)デュルケム・内藤莞爾訳 『デュルケム法社会学論集』

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