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第三章「少年は凶悪ではなく純真無垢となっている」 (2005.01.22 Saturday) [論文]
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第三章 青少年は凶悪ではなく純真無垢となっている

 少年事件に深く関わっている人の中では、昨今の少年は凶悪化しているという風説とは逆に、幼稚化しているのではないかと考えている人も少なくない。
 もし統計数字上の凶悪犯罪の増加が少年の凶悪化を意味しているならば、その裾野である少年の粗暴犯も増加しているはずである。しかし、このことは【図7】を見ればわかるとおり、正しくない。少年の粗暴犯は増えるどころか減少している。

 それどころか、警察は凶悪な少年犯罪に対しては厳罰で臨むと97年に宣言し、それが事実であることは強盗件数の増加で証明されているが、実際は少年犯罪に対する刑事処分の割合は増えるどころか70年を境に減少し続け、保護観察の処分を受ける少年が激増しているのである。【図9】

 現在は少年の凶悪犯罪に対して、非常に風当たりが強くなっている社会である。警察は厳罰に望む方針を明らかにしている以上、少年の凶悪性が依然と変わりないとしても、刑事処分率は増加しているはずである。しかし、現実はそうではなく刑事処分率は激減し、保護観察は激増している。
 つまり、このことは少年は凶悪化しているのではなく、むしろ幼稚化しており、警察は少年に対して厳罰に望もうにも望めなくなっていることを指しているのである。

 社会学者の土井は、少年たちに欠けているのは良心ではなく想像力であるとした。想像力がないからこそ良心も見受けられないということである。(17)

 関西の少年院に勤務する法務教官は、少年院に入所してくる最近の少年を「パチモンですわ!」と評している。(中略)従来、少年院には、非行キャリアがかなり進行し、いわゆるワルとして人格形成の進んだ少年が多く収容されていた。したがって、少年院のプログラムも、その確立された反社会的な性格や信念の矯正をめざして組まれてきた。ところが、昨今は、重大犯罪を起こしたために少年院に収容されはしたものの、たんに性格が幼いだけで、矯正の対象とされるべき確立した信念体系が少年のなか見当たらないので、適切なプログラムを組むことができずに教官の側が途方に暮れてしまうといったケースが増えているというのである。

 殺人事件を起こした17歳の少年は、法廷で「遺族の気持ちがわかりますか」と問われ「わからない」と答えている(18)。
 小林よしのりは、純真無垢のことを「真っ白けの狂気」と呼び、決して褒められるものではなくむしろ恐ろしいものであると述べる(19)。

 純真無垢の子どもが多数存在するのは、社会が非行を生まなくなっているからである。かつての少年たちは、親や教師といった存在と対立に、それ対する反発を契機としてネガティブな感情を生み、それを上手にコントロールして成長してきた。しかし、現代社会は衝突なき社会である。反発する対象の消滅した子どもたちは、それゆえネガティブな感情を生み出す機会も成長する機会も与えられず「純粋無垢な存在」として歳を経るのである。
 純粋無垢な存在の犯罪には社会的な動機は存在しない。つまり、少年犯罪の動機が大人たちに分からず「わけのわからない事件」と形容されるのは、彼らが犯行を犯す動機が見えにくいのではなく、それが彼ら自身の中でのみ通用する動機であり、社会的な意味での動機が存在しないからである。

おわりに
 少年の犯罪は昔から数多く存在していたことが、橋本などによって報告されている(20)。しかし、マスコミや世論はそれだけでは納得せず、今度はそれに変わる言説として「質が変わった」と述べる識者も増えてきた。また、質が変わったことがそのまま昔よりも今が悪くなったとは限らない。確かに、今の少年が起こす犯罪には「動機なき犯罪」がかつてよりも増えているかもしれないが、それはあくまでも外から眺める大人側の観点であって、当の被害者や周辺のものには全く関係のないものである。動機があって誰もが納得する凶悪犯罪が多数発生するよりも、動機のわからない犯罪ではあるが、稀にしか起こらないような社会の方がより住みよいのは当然である。

 最近の少年による凶悪犯罪は激増しておらず、むしろ少年たちは凶悪な事件をほとんど起こさなくなっている。そして、ごく一部で今も発生する凶悪事件も、それは少年たちが凶悪化しているためではなく、逆に幼稚で純真無垢となっているからである。

参考文献
(17)土井義孝『<非行少年>の消滅』
(18)読売新聞2000年6月9日
(19)小林よしのり『新ゴーマニズム宣言』
(20) 橋本健午『有害図書と青少年問題』

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