虚構はしょせん虚構に過ぎない。だが虚構を求める人々の心は「真実」だ
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「人間は脳を10%しか使っていない」という神話 (2004.07.11 Sunday) [セコい神話]
●脳に関するアレコレ
 かなり前の話なのですが、教授がNHKの「ETV特集」という番組を見ていると、パーキンソン病の治療法を放映していました。パーキンソン病の治療薬として、胎児の脳を患者の脳に注射すると症状が改善されるというもの。勿論胎児は中絶されたものを使っているのですが、わざと妊娠してわざと中絶する商売が流行りそうですねこれ(欧米のみの実験的治療法で、倫理的観点からか日本ではやっていないそうです)。

 脳に関しての他の実験では、分離脳実験という手術によって右脳と左脳が分かれた患者は、右脳と左脳では別々に情報処理を行っており、右脳の領域である左目で見た情報は左脳に入らず、左脳の領域である右目で見た情報は右脳に入らないということが分かっています。このため、人間は元々右脳と左脳の二つの人格を持っており、普通はその間の情報交換が活発なために人格が一つのように見えるという説があります(分離脳に関しては別にやります)。

●人間は脳の10%しか使っていない?
 しかし、脳に関する話で一番知られていてかついんちきな話が「人間は脳を10%しか使っていない」という神話でしょう。この間も「能力開発セミナー」とかで載っていました。最近はグレードアップ(ダウン?)されていて、人間の脳は3〜5%ほどしか使ってないことになっています
 この脳みそ10%理論は昔から超能力とかそっち系の世界で頻繁に使われている学説(?)で、要するに人間の脳には残り90%の「眠っている力」があり、それを引き出せば超能力とか第六感とか、まあその手の人たちが大喜びしそうな「隠された力」が覚醒するとかいいたいそうです。

 しかし、パーキンソン病やアルツハイマー病などを見れば分かると思いますが、人間の脳は非常にデリケートに出来ていて、わずかな損傷でも重大な障害を引き起こすようになっています。
 もし、私達の脳が本当に10%しか使われていないならば脳の損傷は対した被害にはならないはずだし、頭蓋骨のような非常に硬い骨で覆う必要も無い(ちなみに、人間の部位で一番固いのは歯で、骨で一番硬いのは内耳を覆う骨)。そもそも、人間は使われていない部位は衰えるものなので、脳が10%しか使われていないならば、残りの90%はよぼよぼになっています。

 さて、こういうとこの説の支持者が「それは違う。実際に脳の全てが活動しているわけではないことは脳波で分かる」という主張をされるかもしれませんが、別に人間の脳の全てが「同時に」活動しているわけではないのだから、これは当然のことです。
 その時人間が何をしているかによって、脳の活動場所は違います。有名なところで言えば(歌詞の無い)音楽を聴けば右脳が活動するし、小説を読めば左脳が活動するようになっています。
 そして、その間は片方の脳は休息を取っていて、脳波も落ちます。これを「脳の使い分け」と言って、効率よく脳を使うための生物の仕組みです。
 もしも、全ての脳が同時に動いていたら大変です。人間の性欲は視床下部の下にある性欲中枢によって支配されています。ここが常に刺激されていたら、あなたはワーグナーの楽曲を聴きながら大事なところが反応したりします。それだけならまだしも、全く好みじゃない異性にいいよられながら下半身はファイト一発元気はつらつです。大変ですね。

 また、私達の脳は全てがオンリーワンではなく、「余剰」と呼ばれる余分な機能もあります。
 かなり昔のテレビ番組では事故で脳の半分が失われたが、子どもだったおかげか無事だった脳が右脳と左脳の双方の能力を得て成長したという事例があります。
 脳機能の通路は、一つの道ではなく、複数の道が存在します。これは、確かに無くてもかまわないものだけれど、何らかの異変が脳に起きた場合に代わりに道を提供してくれる、言わば「安全装置」とも言うべき機能であり、決して超能力とかを目覚めさせるための機能ではありません。

 さて、この「脳が10%しか使われていない」という言葉の10%の数字がどこから出てきたかだけど、これはどうやらアインシュタインが遺したらしい「我々人間は潜在能力の10%しか引き出せていない」という言葉から来ているようです(らしいというのは、この言葉の出展がウィリアム・ヘルマンスの「アインシュタイン『神を語る』」という本だからです。作者名から分かるとおり、アインシュタイン自身が書いたものではなく、実際に教授がこの本を読んだわけではないので、内容が本当にアインシュタインの自伝的作品なのか、それとも『アインシュタインならこう語るだろう』的作品なのかは分かりません)。

 これは別に、アインシュタインが超能力とかそういうことを言い出したわけではもちろんなくて、単純に「努力をすることで、潜在能力を引き出せる=努力をしなさい」と主張したかっただけなんだけど、まさかアインシュタインも自分の言葉が未来でトンデモさん系の発想に利用されているとは思わなかったでしょう。
 というか、アインシュタインはトンデモ系さん系に「相対性理論は間違っていた!」とか「科学者はアインシュタインが天才だからと、(科学理論が)間違っているのに盲信しているのだ!」などと、科学史上最も攻撃されている人物なのですが、その人物の言葉が超能力の根拠とかにされているのが笑えます。

 ただ、この手の神話の謳い文句である「私たち人間には隠された才能がある!」というのは人間にとって最大級の魅力の一つなので、この手の神話は形を変えこそすれ、無くなることはないでしょう。もちろんこの場合の隠された才能とは、野球でいう秘密兵器のようなもので、永遠に隠されたままだと思いますが。


・好みじゃない人に言い寄られてもファイト一発にはなりません。
・脳は100%稼動しています。
・野球の試合で「君は秘密兵器だ」と言われても喜んではいけません。
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